株式会社フブキ 代表・角川
最近、ラインハーネス(LINE Harness)という自動化ツールを0円で配り、オープンソースで全コードを公開している作り手の話に強く共感した。彼は「流動性」という言葉で世界を捉えていた。これまで場所や時間やお金に縛られて流れの悪かったものに、AIで流れを作っていくのが気持ちいい——という感覚だ。
私はこの言葉を聞いたとき、自分が四半世紀やってきたことの正体を、ようやく言い当てられた気がした。
私は1999年に株式会社フブキを創業し、それ以来ずっとWeb制作の現場にいる。この四半世紀で起きていたことを一言でいえば、「作るコストが、下がり続けてきた」ということに尽きる。AIは、その長い坂道の最終局面に過ぎない。だからこそ、この変化が次に何を引き起こすのかが、現場の実感として見えてくる。
この記事では、「流動化」という補助線を引くことで、AI時代に価値がどこへ移動するのかを書いておきたい。
流動化とは、これまで場所・時間・金額・専門性といった制約に縛られていたものが、その制約を外されて自由に流れ出していく現象を指す。
例を挙げるとわかりやすい。かつて映画は、映画館に足を運び、決まった時間に、限られた座席数のなかでしか観られなかった。いまは配信で、いつでも、どこでも、無限の人数が同じ作品にアクセスできる。不動産も、一棟まるごと所有するしかなかったものが、いまは小口で分けて持てる。
制約が外れると、流れが良くなる。流れが良くなると、それまで届かなかった人にまで届く。これが流動化だ。
そしてAIは、「作る」という行為そのものを猛烈に流動化させている。文章も、デザインも、コードも、戦略の素案も、かつては専門家が時間をかけて作るしかなかった。その制約が、いま外れつつある。
ここからが本題だ。作るコストが0円に近づくと、価値は一つの方向には進まない。二つの正反対の方向に、引き裂かれていく。
ひとつは、「誰でも作れる、限りなく0円に近づくもの」。AIで量産できるコンテンツ、テンプレートで組めるWebサイトやLP、ありふれた説明文。これらは流動化の側に落ちていき、価値はどんどん薄まる。
もうひとつは、「誰にも複製できない、だからこそ希少になるもの」。ある人にしか出せない判断、長年の経験に裏打ちされた目利き、その人だからこそ築けた信頼関係。AIで世界が流動化すればするほど、この「流動化しない側」の価値は逆に上がっていく。
私はこれを、フブキの二つの事業で身をもってやっている。
フブキの「Webサイト社内構築ツール(FUBUKIモジュール)」は、流動化する側に振り切った事業だ。
これはHubSpot上に独自開発したノーコードのモジュールで、専門知識のないビジネスパーソンでも、テキストと画像を当てはめるだけで自社サイトを最短3日で構築・更新できる。従来のリニューアル予算の3分の1で済んだ事例もある。
かつてWebサイトは、数百万円を払って制作会社に頼むしかなかった。それを内製化し、誰でも触れるものにしていく。これはまさに、制作という行為を流動化させる動きだ。
そして私はいま、この価格体系そのものを変えようとしている。構築費を一括で受け取るのではなく、入口を限りなく軽くして、月額で長く伴走する形へ。入口の金額という、最後に残った制約を外していく。AIによって一件あたりの構築コストが下がるからこそ、この設計が現実になる。
一方で、フブキの「PR事業部運営代行」は、流動化させてはいけない側の事業だ。
これは、社員一人を雇うコストで、企業の広報・PR全体を私たちがまるごと引き受けるサービスである。毎週の定例ミーティングに、私自身が出る。お客様からよくいただく声がある。「わかっている人に頼むから、説明や共有が大幅に減る」「ミーティングの中で答えが出る」「ぶっちゃけ、丸投げできる」。
これらは、サービスの安さに払われている言葉ではない。私という人間が四半世紀かけて溜めてきた経験と判断に、払われている言葉だ。ここはAIでは複製できない。むしろ、AIで誰もが「それなりのもの」を作れるようになるほど、「この人に任せれば外さない」という判断の価値は希少になっていく。
だから、PR代行は値下げも量産もしてはいけない。流動化の波が高くなるほど、この岩は高く見えるようになる。
ここまで読んで、矛盾を感じた方がいるかもしれない。0円で配る事業と、人の固有性で値段をつける事業。正反対ではないか、と。
だが、この二つは敵ではない。一本の流れとしてつながる。
流動化させた入口(0円に近いモジュール)で、数多くの企業に届く。そのなかから「もう全部任せたい」というお客様を、流動化しない核(人が判断するPR代行)へとお迎えする。流れの良い入口が、希少な出口への導線になる。
冒頭に挙げたラインハーネスの作り手も、ツールは0円で配り続け、その先のコミュニティや教育で食べていくと語っていた。構造はまったく同じだ。流動化する側で裾野を広げ、流動化しない側で価値を取る。これがAI時代の、私なりの勝ち筋だ。
AIで「作る」が0円に近づく時代に、企業や個人がやるべきことは、突き詰めれば一つだと思う。
自分の持っているものを、「流動化する側」と「流動化しない側」に仕分けることだ。
流動化する側——誰でも作れるようになっていくもの——は、潔くAIに任せ、安く速く大量に提供する側へ回す。むしろ自ら0円にして、流れを作る。
流動化しない側——自分にしか出せない判断、関係、目利き——は、安売りせず、むしろ磨く。流動化が進むほど、ここに価値が集まってくる。
迷っている時間がもったいない。AIは一刻一刻と進化していて、AI以前の頭のまま立ち止まっている人と、すでに流れに乗っている人とのあいだには、煽りでなく、取り返しのつかない差がつき始めている。
A. 場所・時間・金額・専門性といった制約に縛られていたものが、AIによってその制約を外され、自由に流れ出していく現象です。映画館での鑑賞が配信に変わったように、「作る」という行為そのものがいま流動化しています。
A. なくなるというより、価値が移動します。誰でも作れるものの価値は薄まり、誰にも複製できない判断・経験・信頼の価値が逆に上がります。やるべきは、自分の仕事をこの二つに仕分けることです。
A. ある人にしか出せない判断、長年の経験に裏打ちされた目利き、その人だからこそ築けた信頼関係です。AIで世界が流動化すればするほど、こうした人の固有性は希少になります。
A. 自社の業務を「AIに任せられること」と「自社・自分にしかできないこと」に分けるところからです。前者は積極的にAIへ、後者は磨き込む。フブキでは、流動化する側のWeb内製化ツールと、流動化しない側のPR運用代行の両方をご用意しています。
角川(株式会社フブキ 代表)
1969年生まれ、広島出身。明治大学卒業後、不動産マンションデベロッパーの営業を経て、インターネットの可能性に魅せられ1999年に株式会社フブキを創業。以来四半世紀にわたり、企業のWeb・広報・PRの現場に立ち続ける。HubSpotゴールドパートナー。写真家としても活動し、これまでにアルゼンチンなどで18回の展示を開催。東京・山梨(石和温泉)・北海道(旭川)を拠点に活動中。
株式会社フブキ|https://www.fubuki.com/