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2025年08月17日配信
本報告書は、ロバート・ディルツが提唱した「5つの論理レベル(ニューロロジカルレベル)」を、企業の「幸福的成長」という目標達成のための戦略的フレームワークとして再構築し、これを中核に据えたブランドスローガン戦略を提案するものです。ご提示いただいた5つの「鞘」の定義に準拠し、各レベルの本質的な意味を深く掘り下げ、企業が社会に提供すべき多層的な価値を言語化します。
分析の結果、企業ブランディングにおけるスローガンは、単なる広告文句ではなく、企業の存在意義(パーパス)を顧客、従業員、そして社会全体に約束する「プロミス」であると認識されます 1。ディルツのモデルが示すピラミッド構造は、最上位の概念である「コーポレートアイデンティティ」が下位のすべての活動を規定し、一貫性と説得力を生むという重要な原則を提示しています 3。
本報告書では、各「鞘」の理念に対応する5つの戦略的キーワードを選定し、そこから導き出される10個のスローガン案を提示します。これらのスローガンは、単一の価値を表現するのではなく、複数の「鞘」に跨るキーワードを組み合わせることで、企業の多角的な価値観を統合的に表現し、すべてのステークホルダーとの間に深い共感と信頼を築くことを目指します。
企業が掲げるメッセージには、その目的や期間に応じて様々な種類が存在します。マーケティングにおいて、混同されやすい概念として「タグライン」「スローガン」「キャッチコピー」が挙げられますが、それぞれが果たす役割は異なります。キャッチコピーは特定のキャンペーンや広告のために作成され、短期的な影響を狙うフレーズです。これに対し、ブランドスローガンやタグラインは、企業やブランドの普遍的価値や長期的なメッセージを伝えるために使用され、一貫性が求められます 2。例えば、アサヒビールの「すべてはお客さまの『うまい!』のために。」やロッテの「お口の恋人」といったフレーズは、企業の本質的な存在価値を端的に表し、長期にわたって消費者に強い印象を与えています 5。
本報告書で提案する「スローガン」は、この「タグライン」に近い概念として捉えられます。それは、単に製品の魅力を伝えるだけでなく、企業の普遍的な価値と想いを顧客に分かりやすく伝えるための、長期的な戦略の基盤となる言葉です 7。このようなスローガンは、顧客に対する「プロミス」として機能し、企業が何を提供し、どのように価値を届けるのかを明確に示すことで、ブランドの認知度向上、信頼構築、そして市場における差別化に貢献します 2。
ご依頼の根幹をなす、ロバート・ディルツの「5つの論理レベル」は、人間行動の動機づけを階層的に捉えるNLP(神経言語プログラミング)の重要なモデルです 3。このモデルは「どこでやるか(環境)」「何をやるか(行動)」「どうやるか(能力)」「なぜやるか(信念・価値観)」「自分は何者か(自己認識)」という5つのレベルで構成されています 4。
このピラミッド構造を企業のブランディングに応用する最も重要な点は、上位のレベルが下位のレベルの行動を規定するという因果関係です 4。たとえば、「なぜ」事業を行うのかという「信念・価値観」レベルの問いが明確でなければ、具体的な「行動」は曖昧になり、意欲も持続しません 4。逆に、最上位の「自己認識(コーポレートアイデンティティ)」を確立すれば、それに相応しい「信念」や「能力」、ひいては具体的な「行動」や「環境」が自然と定まり、全ての企業活動に一貫性が生まれます。
ご提示の「幸福的成長」というテーマは、まさにこのピラミッドの最上位に位置するべき、究極的なゴールです。この階層的なフレームワークを用いることで、単なる言葉の羅列ではない、企業の存在意義から具体的な行動までが一貫して結びついた、戦略的かつ説得力のあるスローガンを構築することが可能となります。
この「鞘」は、企業が活動する外部環境、すなわち市場、社会、地域性を指し、ディルツのモデルにおける「環境」レベルに相当します 3。これはピラミッドの最下層に位置し、企業がどのようにその場に存在するかを規定する基盤です。現代においては、単なる市場機会の分析に留まらず、社会・環境課題への貢献が不可欠な要素となっています。サステナブル・ブランディングが示すように、社会や環境に対する配慮は、もはや企業の選択肢ではなく、顧客、従業員、投資家など全てのステークホルダーから求められる前提条件です 8。企業は、単に外部環境に適応するのではなく、積極的に関与し、より良い社会の形成に貢献する役割を担うべきであると考えられます。
この鞘の理念を体現する5つのキーワードを以下に選定しました。
この「鞘」は、企業の具体的な活動、すなわち製品やサービスの機能・性能を指し、ディルツのモデルにおける「行動」レベルに相当します 3。これは「何(What)をするか」という問いに答えるレベルであり、顧客に提供する具体的なアウトカム(成果)を表現します 3。現代の市場では、単なる機能的価値だけでは差別化が困難であり、顧客は製品やサービスを通じて得られる「体験」や「解決策」により大きな価値を見出す傾向があります 12。したがって、このレベルのキーワードは、単に製品の性能を列挙するのではなく、顧客にとっての具体的な「成果」や「感情」を表現することが重要です。
この鞘の理念を体現する5つのキーワードを以下に選定しました。
この「鞘」は、企業が「どのように(How)」独自の価値を生み出すか、その能力や強みを指し、ディルツのモデルにおける「能力」レベルに相当します 3。このレベルの価値は、単一の製品機能(第二の鞘)を超えて、ブランド全体が提供する普遍的な価値を包含します 5。例えば、カルピスの「カラダにピース。」というタグラインは、機能的価値(身体に良いこと)と情緒的価値(ピースフルな気持ち)を統合した普遍的な価値を表現しています 5。このレベルの価値を明確にすることは、企業文化を形成し、競争の激しい市場で差別化を図るための重要な土台となります 2。
この鞘の理念を体現する5つのキーワードを以下に選定しました。
この「鞘」は、企業が「なぜ(Why)」この事業を行うのかという動機づけを指し、ディルツのモデルにおける「信念・価値観」レベルに相当します 3。創業者の個人的な価値観や哲学は、単なる経営方針ではなく、ブランドの魂となり、顧客や従業員の共感を呼び起こす「物語」を形成します 21。この信念が明確であれば、企業活動に強い目的意識とモチベーションが生まれます 4。信念は、単なる論理的な説明ではなく、感情を揺さぶるストーリーとして語られることで、初めて真の「共有」に繋がります 22。
この鞘の理念を体現する5つのキーワードを以下に選定しました。
この「鞘」は、企業の「誰(Who)」であるか、そして「なんのために存在するのか」という最も上位の概念であり、ディルツのモデルにおける「自己認識」レベルに相当します 3。これは、すべての企業活動の指針であり、組織文化、従業員のエンゲージメント、そしてブランドの最終的な存在理由を決定します 1。近年、従来のミッション(何を行うべきか)、ビジョン(どこを目指すか)、バリュー(どのように実現するか)のフレームワークに「パーパス(なぜ社会に存在するか)」という概念が加わり、その重要性が増しています 17。パーパスは、利益追求を超えた、企業の本質的な存在意義を問い直すものであり、ブランドの最も深い層を形成するものです 1。
この鞘の理念を体現する5つのキーワードを以下に選定しました。
以下に、これまでの分析に基づき、各「鞘」の理念を体現するキーワードを一覧表としてまとめました。これらのキーワードを戦略的に組み合わせることで、多層的な価値観を統合したスローガンを構築します。
鞘の名称 |
キーワード1 |
キーワード2 |
キーワード3 |
キーワード4 |
キーワード5 |
1. 環境調査&分析 |
持続可能性 |
共創 |
共生 |
循環 |
未来 |
2. 活動&検証 |
解決 |
体験 |
貢献 |
成果 |
創造 |
3. 能力&開発 |
信頼 |
感動 |
成長 |
独自性 |
誠実 |
4. 信念共有 |
志 |
情熱 |
共感 |
挑戦 |
物語 |
5. コーポレートアイデンティティ |
パーパス |
使命 |
幸福 |
貢献 |
感動 |
上記キーワードを組み合わせ、企業の「幸福的成長」を体現する10個のスローガン案を提案します。各案には、その戦略的意図と、どの「鞘」の概念を統合しているかを明確に示します。
スローガン案 |
採用キーワード |
統合された鞘の概念 |
提案理由(戦略的意図) |
1. 未来を、幸せで満たす。私たちの挑戦。 |
未来、幸福、挑戦 |
第一の鞘(環境)、第五の鞘(CI)、第四の鞘(信念) |
社会や地球の「未来」というマクロな視点と、企業の「挑戦」という行動を結びつけ、「幸福」という究極的なパーパスにコミットする企業像を描く。 |
2. 感動は、成長と共にある。 |
感動、成長 |
第三の鞘(能力)、第五の鞘(CI) |
顧客に「感動」を与えることが、企業と顧客双方の「成長」に繋がるという、価値共創のサイクルを表現。情緒的価値を重視するブランドに最適。 |
3. すべての活動は、笑顔というソリューションへ。 |
活動、解決、幸福 |
第二の鞘(活動)、第五の鞘(CI) |
企業の具体的な「活動」が、顧客の課題を解決する「ソリューション」となり、最終的に顧客の「幸福(笑顔)」に貢献するという、下位から上位への論理的な流れを簡潔に表現。 |
4. 志を掲げ、未来を共創する。 |
志、未来、共創 |
第四の鞘(信念)、第一の鞘(環境) |
創業者の「志」を原動力として、顧客や社会と共に「未来」を切り拓くという、能動的で協調的な姿勢を示す。 |
5. 誠実という名の、ゆるぎない信頼。 |
誠実、信頼 |
第三の鞘(能力) |
顧客との関係性の基盤である「信頼」を、企業活動の根幹をなす「誠実」さによって築くことを宣言。普遍的で強固なブランド価値を表現。 |
6. 幸せを、形にする創造力。 |
幸福、創造 |
第五の鞘(CI)、第二の鞘(活動) |
抽象的な概念である「幸福」を、具体的な製品やサービスを通じて「形にする」という、企業の使命と能力を明確に表現。 |
7. 幸せの循環を、この街から。 |
幸福、循環、共生 |
第五の鞘(CI)、第一の鞘(環境) |
企業の活動が、地域社会に「幸福」という価値を継続的に生み出し、それが「循環」していくという持続可能なビジョンを地域性と共に表現。 |
8. その成長に、私たちの情熱が貢献する。 |
成長、情熱、貢献 |
第三の鞘(能力)、第四の鞘(信念)、第二の鞘(活動) |
顧客や社会の「成長」に対する貢献を、創業以来の「情熱」を以て実現するという、企業の強い決意と役割を表明。 |
9. 一つの物語が、新しい体験を創造する。 |
物語、体験、創造 |
第四の鞘(信念)、第二の鞘(活動) |
創業の「物語」から生まれた独自の哲学や思想が、これまでにない新しい製品・サービス「体験」を生み出すことを示唆。 |
10. 信頼が織りなす、幸福なエコシステム。 |
信頼、幸福、共生 |
第三の鞘(能力)、第五の鞘(CI)、第一の鞘(環境) |
企業が築く「信頼」の関係性が、顧客や社会との間に「幸福」を生み出し、相互に支え合う「共生」的なエコシステムを形成するという、多層的な価値を表現。 |
スローガンは、単に掲げるだけではその真価を発揮しません。従業員一人ひとりがその言葉の意味を理解し、日々の業務で体現することで、顧客への説得力が増し、ブランドに対する信頼が深まります 25。スローガンを企業文化に深く浸透させるためには、代表者自らがその言葉に込められた「物語」を語り続け、全社的なワークショップや行動規範に反映させるなど、継続的な取り組みが不可欠です 2。社員がスローガンを自身の仕事の意義と結びつけることができれば、組織全体のエンゲージメント向上に繋がります 3。
「幸福的成長」という概念は、抽象的であるため、その達成度を測るための具体的な指標を設定することが推奨されます。例えば、顧客の幸福度を測るための顧客満足度(CSAT)や顧客体験(CX)の指標 12、従業員の幸福度を測るための従業員エンゲージメント指標、そして社会への貢献度を測るためのESG(環境・社会・ガバナンス)指標 9などを複合的に用いることで、企業の「幸福的成長」を多角的に評価し、継続的な改善サイクルを回すことが可能となります。
スローガンは、企業の「幸福的成長」という最上位のゴールを社会に約束する、強力な「プロミス」です。本報告書で提案した「5つの鞘」のフレームワークと、それに基づくスローガン案は、貴社が追求する多層的な価値観を一貫したメッセージとして統合し、すべてのステークホルダーとの間に深い共感と信頼を築くための羅針盤となることと確信しております。この戦略的アプローチが、貴社の長期的なブランド価値向上と持続的な発展の一助となることを心から願っております。