Fubuki Journal
2025年12月07日
FUBUKI代表の角川です。
12月に入り、街も少しずつ慌ただしくなってきましたが、個人的にどうしても観たかったライブがありました。
トーマス・モーガンの来日公演、特に12月14日の東京・赤城神社での公演です。
ビル・フリーゼルとのコラボレーションなどでその深い音楽性に魅了され、ずっと追いかけてきたベーシスト。今回のツアーは絶対に行こうと決めていたのですが……気付いたときには東京公演はすでにソールドアウト。
本当に残念でなりませんが、それだけ多くの人が彼の「現在」に注目しているということでしょう。悔しさを噛み締めつつ、今回は彼が新しいアルバム『Around You Is a Forest』で提示した、驚くべき音楽的アプローチについて書きたいと思います。
今回のアルバムで特筆すべきは、彼が自身のダブルベースと共に奏でている**「WOODS」**というシステムの存在です。
これは彼が「SuperCollider」というプログラミング環境で自らコードを書き、設計した仮想ストリングス楽器です。
現代の音楽制作では、AIによる自動生成や、ブライアン・イーノが提唱したような「システムに委ねて変化し続けるジェネレーティブ・ミュージック」が注目されがちですが、モーガンのアプローチはそのどちらとも明確に異なります。
イーノやAIとの違い:
イーノの手法が「音楽が生成されるルールやプロセス(作曲システム)」を作ることに主眼を置くのに対し、モーガンは**「音そのものの質感(テクスチャ)」と「演奏の相互作用」にこだわっています。
彼は、西アフリカのリュートハープやツィンバロムといった民族楽器の音色をアルゴリズムで合成し、それを「自動演奏マシン」としてではなく、「自分と一緒に演奏するパートナー(楽器)」**として設計しました。
プログラムされた「WOODS」の音は、デジタルでありながら驚くほど有機的です。そこには、予測不可能なゆらぎがあり、モーガンが生身の指で弾くベースとリアルタイムで反応し合います。「便利だからコンピュータを使う」のではなく、「誰も聴いたことのない音の森を作るために、泥臭くコードを書く」。そんな、元エンジニア的な背景を持つ彼ならではの執念を感じます。
音楽を作るデバイスや科学技術は日々進歩し、「誰でも簡単に、プロ並みの曲が作れる」時代になりました。しかし、トーマス・モーガンの音楽がこれほど胸を打つのは、彼が「簡単さ」に背を向け、技術を使って「新しい表現の困難さ」に挑んでいるからではないでしょうか。
この姿勢には、いち音楽マニアとしてだけでなく、表現に関わる人間として強く心を揺さぶられます。
彼のアプローチに刺激を受けつつ、私自身もまた、全く別のアングルから音楽の新しい在り方を模索しています。
最近の私は、スピーカーやマイクといったPA機器を一切通さず、舞台もない小さな空間で、数時間演奏を止めずに弾き続けるという活動を行っています。
「聴かせる」ための演奏ではなく、その場の空気に溶け込むBGM然とした振る舞い。電気的な増幅に頼らない、物理的な音の減衰と、時間の経過による集中力の推移。
モーガンがデジタルの極致で「有機的な森」を作ろうとしているのに対し、私はアナログの極致で「空間との同化」を試みています。手法は真逆ですが、既存のフォーマットや「こうあるべき」という常識を疑い、あえて不便な制約の中に身を置くことでしか見えない景色があると感じています。
技術的に「すごい!」とか、ツールを使って「便利!」という地点から一歩踏み出し、簡単ではないけれど自分だけの新しい境地を探すこと。
それこそが、これからの創作において最もスリリングな冒険なのだと思います。
東京公演は逃してしまいましたが、ツアーは各地で続きます。もしお近くの方は、ぜひトーマス・モーガンの「新しい森」を体験してきてください。
『Around You Is a Forest』発売記念
12/09 (火) 名古屋 | TOKUZO
12/11 (木) 岡山 | 蔭凉寺
12/12 (金) 神戸 | 100BAN Hall
12/14 (日) 東京 | 赤城神社(SOLD OUT)
12/16 (火) 石垣島 | Jazz Bar すけあくろ
12/19 (金) 沖縄 | 浦添美術館
12/20 (土) 福岡 | うきは Studio 1143
モーガンのデジタルの森であれ、私のアナログな空間であれ、そこで行われているのは「音を通じた濃密な対話」です。
私自身、音楽を通じたコミュニケーションをこよなく愛していますが、この「聴く力」と「調和させる力」は、ビジネスの現場においても変わることはありません。
現在、私は株式会社フブキの代表として、この感性を活かした**「合意形成コンサルティング」**を行っています。
異なる意見や複雑な利害関係を整理し、チームとして美しいアンサンブル(合意)を奏でられるようサポートする。それは、ある意味で音楽を作るプロセスと非常によく似ています。
組織内のコミュニケーションやプロジェクトの進行にお悩みがあれば、ぜひ一度、私たちの取り組みをご覧ください。
▼ FUBUKIの合意形成コンサルティング
